税理士会の研修などで成年後見の話を見聞きしたり、弁護士や司法書士などの士業のかたから税理士は成年後見をしないとのかというお話があったりします。
高齢化社会になって成年後見のニーズは認知症の高まりとともに増えてきています。また成年後見の在り方の見直しも始まっており制度変更の機運も高まっています。
税理士も成年後見を担うことはできるのですがわたしは今のところ登録を見送っています。その話を少し書いてみます。
成年後見対応の難しさ
成年後見制度は認知症などで自分で判断ができなくなった方への法律的なサポートになります。
この法律的な、というのがポイントです。
成年後見を利用する際には家庭裁判所に申し立てをして審理を経て決定されますが、その後の報告先なども家庭裁判所になります。
まずここが大変だなと研修を受けていて思ったのが正直なところです。
成年後見をうけた人のお金や契約などの管理、身心の監護を行い家庭裁判所に報告したり判断を仰ぐわけですが、税理士としてそういうことに慣れている方はほとんどいないでしょう。
決算を組んで税務申告書類を作成するのが税理士の仕事なわけですから、成年後見事務にそもそも詳しくない状態です。
研修を受けたとてそれこそ現場を見ることも経験することもなくいきなり選任されても困ることのほうが多いはずです。
また自分が困るだけならまだしも、成年後見を受けている方やその家族にもご迷惑がかかる可能性はあります。
家庭裁判所は税務署とはもちろん違いますしこちらの考えと合致するというのは未知な部分が多いです。
こう思うきっかけになったのは認知症で成年後見を受けている相続人がいる場合の遺産分割協議案の提出時のことです。
こちらで次の相続のことも考えてこういう分割案でと提出したのですが、通らなかった経験があります。
そのときにこちらと考え方が違うものなんだなと改めて感じ、そこを相手に仕事をするのは大変だろうと感じました。
成年後見業務を担うと基本的に報告先、相談先は家庭裁判所になりますから考え方の違いは大きく影響するはずです。
そういう経験があって成年後見業務を担うのはかなり大変そうだ、と考えて今はお受けしていません。
税理士として薦める機会は少ない
認知症になった方を保護する目的での成年後見ですから出来ることはとても限られます。
そのための成年後見ですし、相続対策なども基本的に何もできなくなります。
なので税理士として成年後見制度をクライアントに薦める機会はほとんどありません。
相続の仕事をしていても、よほどのこと例えば推定相続人による財産の使い込みが疑われるようなケースでなければ積極的に薦めるシーンはありません。
そういうことがあったとすればもうすでにその相続は揉める可能性が高くなるでしょうし。
家族信託などもいまとても注目されていて認知症になった後のケアを担えるものとして導入検討をしているかたもいるでしょう。
自由度が高い分難しいですし想定外のことがおこると税務上での対応が未整備なところに突っ込んでいく可能性もあります。
信託も有用なシーンはありますが、まだ税務上の処理や判断が未整備の部分がありますので過信しすぎるのもリスクがあります。
適当な内容の家族信託の契約書であればないほうがよかったという事例もありますので慎重に判断したいところです。
あくまで選択肢の一つとしてとらえておきましょう。
そうすると認知症のリスクを考えてどういう対策が必要かというと、逆に成年後見制度や家族信託を使わなくて済むような事前準備のほうが重要性があるというのが今の私の考えです。
もちろんやむを得ず成年後見制度を使わないと対応ができないケースもありますので、そのあたりは柔軟に考えていますが、あえて採用する状況はかなり少ないと思っています。
まとめ
そもそも論ですが誰かに薦める気持ちが湧いてこないことを自分がやっていくというのがあまり気乗りがしない話ではあります。
相手のためにならないのであれば自分のためになってしまうからです。保険代理店とかの登録をしていないのもそういう面があります。
自分の気乗りがしないことを相手に薦めなくてよい、というのは独立後の効用のひとつです。