相続税申告を受注した場合、契約書を締結するかどうかは税理士によってかなり分かれる印象です。契約書を取るか取らないか。困ったことにならないための対策を考えてみます。
こんな相談があった
先日、同業の税理士さんから相談がありました。こういうことってあるの?という内容だったのですが「あるといえばある」かなと。
私も何度か経験して今のような対応になっています。
相談の概要としては、相続人が子二人で兄からの依頼で相続税申告のほぼ完成までできたにもかかわらず弟への申告内容と税額の確認の段階になって弟から自分は頼んでいないので申告は自分でする、と言われたと。
兄からは実費の支払いを打診されているそうなのですが結局申告業務としては行わないことになりそうです。
こういうことってあるのか?と。
実際のところ相続人間で意思疎通ができていないとこういうことは起こりえます。
私も何度も経験しましたがやはりこちらとしては下手するとタダ働きになりかねませんので慎重に対応したいところです。
事例で言うと兄とはいわば口頭契約と言えなくもない状態のようでした。
私はこれに加えて弟がそのドラフト資料を勝手に税務署に持ち込んでチェックしてもらい、申告不要と言われたというクレームにまで発展したことがあります。
結果的にはほかの相続人が相続時精算課税贈与を受けていたのでその財産が相続財産に加算されて申告が必要というものでしたが、弟はその贈与を知らなかったのです。
こうなると話としてはかなりこじれますし結果的には依頼があった兄とその他の相続人の分だけ申告をしました。
勤務時代にこういうことが年に一回程度あったにもかかわらず、勤め先では相続税申告に関して契約書を締結する文化がなかったので、対応をさせられていた私としては独立後は契約書があったほうがいいということで当初から契約書は基本的に締結するようにしています。
契約書があれば全部解決、ではないけれど
相続税申告業務の場合は契約の相手が相続人であり事業者ではなく消費者となります。
この場合は消費者保護の観点から責任制限条項が消費者契約法により無効とされる可能性が高いとのことです。
いわゆる「本件相続にかかる報酬の額を上限として損害を負担するものとし…」といった税理士側の責任を制限する条項についてのことです。
リスクマネジメントしたい場合には税理士会から提供されている契約書のひな形に加えて、責任制限条項のない委任契約の対策も重要です。
死亡日前の出金などについて使途不明であったり名義預金と思しき財産の計上について理解を得られなかったりする場合には対策しておいた方が望ましいケースもあります。
・申告書に記載している財産の価額は〇〇〇円でこの内容について相続人が了解している
・仮に税務調査で財産計上漏れが認定または判明した場合には本税については本来は相続人等が納付すべきものであるため相続人の負担となる
・税務調査で仮装隠ぺい行為があったと認められた場合には重加算税の対象となる可能性がある
・延滞税や加算税についても当初申告で適切に処理されていれば本来は支払う必要がないものである
といった確認書面を取ることは選択肢ではあります。
私は勤めている時代に相続税申告対応をしていたときに何度か理解が得られなかったケースで税務調査が来たらまず間違いなく指摘されるであろう場合には確認書面を取っていました。
それですべてが解決するわけではないのですが、相続人等とトラブルになったときに確認書面に署名捺印があることは有利に働くと考えたからです。
契約書についても相続人等と締結しない税理士もいるかと思いますが、私自身は事務所のスタンダードとして申告の相談があったときに「契約書締結後に業務を開始する旨」を面談時にお伝えしています。
また場合によっては金額が大きい、親族間で争いごとが発生しそう又はしているといったときには着手金契約にすることも選択肢です。
揉め事がおきて相手方の税理士側ですべてまとめて申告をする、ということになったときにいくらの請求をするかで相続人等と揉めなくて済みますし、ある意味でけん制効果はあるでしょう。
まとめ
どこまでやるかは税理士側でリスクマネジメントとしてどこまで対応しなければいけない案件なのかの見極めが大事です。
契約書や確認書面があれば万全というわけではなくトラブルに発展してしまったときにどういう対応をしていたかを裁判などで説明する際の証拠として捉えておくのがいいかなと個人的には考えています。
もちろん、すべての事案についてトラブルが発生する前提ではないですが、もし万が一そういうことになったときに口頭契約だけだとやはり苦しい内容になりかねないです。
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