いわゆる資産税と呼ばれる相続や贈与、事業承継、譲渡所得税の分野を取り扱っています。特に相続に関しては税金が大きくなるということも影響としては大きいのですが、生前対策も栄養してきます。
節税だけではなく、相続人の方がいかに納得できるかというのがポイントになると思っていて、「税金だけじゃない」というのが面白いところでもあります。今日は選択肢を提示することなど、その辺のお話を少しお伝えしていきます。
例えば、こんな時どうするか
これは割と最近よく見聞きする話なのですが、年配の方が一人暮らしやご夫婦で過ごされているご自宅を売却するかどうかという相談があります。その話の流れの中で「贈与しておきたい」というニーズも一定程度あります。
というのも、認知症になると売却が難しくなるというのはよく知られているところではありますが、その前に贈与しておこうという考えから来る対策の一つです。
もちろん、生前に贈与しておいてタイミングが来たら売却をするというのも選択肢にはなります。ただ、税金を計算するときには、住んでいる人が自分が住んでいる物件を売った方が居住用の3,000万円控除を使えて、所得税の計算上は有利になるケースが多いです。
そのご自宅がマンションである場合には、相続後の空き家特例については使えませんので、なおさら相続後に売却する予定ということであれば、生前に売却しておくというのも選択肢に入ってきます。
ただ、今現実に住んでいる家を売却するかというと、少し抵抗がある方も多いのが実際のところです。また、ご実家=自分が住んでいる家を売却するにあたって、次にどこに住むか、次に住むところをどのように手当てするか(施設なのか賃貸なのか)ということも気になる方は多いでしょう。
税金のことだけ見ると、例えば不動産の状態の方が相続税の計算上は有利になることもよくあります。現金化してしまうと不動産の時よりも財産の総額が高くなる可能性もあり、相続税が結果的に増えてしまったということも可能性としてはあるわけです。
このように税金のことだけ見ると、何を対策していいのかということがわからなくなってしまうケースもあります。
ご自身やご家族が穏やかに、またお金の心配のない状態で生活できるというのは何事にも変えがたいと私は考えています。なので、税金のことだけをフォーカスして対策を考えると失敗する可能性がありますので、「どういうことをするとこうなります」という選択肢を提示することは大事だと考えています。
その中から「自分がこれをしたい」「皆さんで納得の上行っていただく対策」があれば、それをやっていただくのが良いかなというふうに考えています。
すべてのことに選択肢があるわけではない
もちろん、前段の例のように売却するか贈与するかということに対して選択肢が2つある状態ではあります。ただ、すべてのことに選択肢があるというわけでもないです。
そういったときには、ある程度判断材料を提示して「どうしますか」ということをお伝えするしかありません。決めきれない人というのは中にはいらっしゃいますので、そういった方に無理して決断をさせると後悔する可能性があります。
なので、そういった場合でも「このままだとどうなるか」ということのシミュレーションをしておくことは大事だと思います。「どうしたらいいか」という問いに対して答えをいくつか用意しておくようなイメージでもいいでしょう。
「これしかない」というケースもあるにはあります。なので、そういうときには選択することはできませんが、「もしこのままだとどうなるか」ということをご説明することは可能です。
先ほどの家で言うと、贈与もせずに売却もしない場合にはそのまま財産を持っておかれるということになりますので、「もしお亡くなりになったらこれぐらいの相続税がかかり、もしその後相続人の方が売却をされたらこういうふうな税金がかかりそう」ということをお伝えすることはできます。
税金のことや相続については、特に不安の面が大きいと思います。そこの部分をいかにケアしてあげるかというのも、資産税をやっていると大事に感じます。
思い入れがある実家を売ることに対して抵抗があるというのはよくわかる話ですし、「じゃあどうすればいいのか」というのは考えて答えが出るのであればいいですが、全部が全部答えがあるというわけではないです。
何を優先して考えていくか、この部分をわかりやすく伝えるというのも仕事の一つかなと思いながら、資産税をやっています。
まとめ
資産税の相談では、数字だけでなく人の気持ちや生活の質を大切にしながら、その方にとって最も良い選択肢を一緒に見つけていくことが重要だと感じています。
資産税相談における重要な視点
- 税金の最適化だけでは不十分:節税だけでなく、相続人の納得が重要
- 生活の質の維持:ご自身やご家族が穏やかに生活できることが最優先
- 多面的な検討:税務面だけでなく、住居確保や感情面も考慮する
選択肢提示のポイント
- 複数の選択肢を用意:「どういうことをするとこうなる」を明確に説明
- 現状維持の場合の影響も説明:何もしなかった場合の将来予測を提示
- 判断材料の提供:選択肢がない場合でも判断材料を整理して提示
- シミュレーションの活用:「このままだとどうなるか」を数値で示す
よくあるケーススタディ:自宅の処分
生前贈与のメリット・デメリット
- メリット:認知症対策、相続後の売却準備
- デメリット:居住用3,000万円控除が使えない可能性
生前売却のメリット・デメリット
- メリット:居住用3,000万円控除の活用
- デメリット:住居確保の問題、感情的抵抗
相談者への配慮
- 決断を急かさない:決めきれない方への無理強いは禁物
- 不安のケア:税金や相続に対する不安を丁寧に聞き取る
- 感情面の理解:思い入れのある実家への感情も尊重
- 優先順位の整理:何を最も大切にしたいかを一緒に考える
専門家としての役割
- 税務の専門知識を活かしつつ、人生設計全体を視野に入れる
- 選択肢とその結果を分かりやすく説明する
- 相談者が納得できる決断をサポートする
- 「税金だけが正解じゃない」世界での最適解を一緒に見つける