AIを使うようになってから、よく考えることがあります。「これは任せていいのか、自分でやるべきなのか」という問いです。
税理士の仕事は、ミスが許されない場面が多い。だからこそ、この線引きをどこに引くかが、けっこう大事だと思っています。
「AI万能論」でも「AI懐疑論」でもなく、実務家としていま考えていることを書いてみます。
任せてみて、最初に気づいたこと
転記・整形・検算のような定型作業は、思っていた以上にAIの方が速くて正確でした。
数字を打ち込む、フォーマットを整える、突き合わせて確認する。
この手の作業を任せてみて、正直「自分が今まで費やしていた時間は何だったんだろう」と思う瞬間がありました。
ただ、ここで一つ気づいたことがあります。効率化を感じているのは、あくまでこちら側の話だということです。
ぼくが「速くなった」「楽になった」と感じていても、お客様がそれをどれくらい実感してくれるかは、また別の話です。
極端に言えば、記帳代行にしても「めんどくさいから頼みたい」という方は、これからも一定数残ると思っています。
作業がAIでどれだけ速く正確になろうと、お客様が求めているのは「自分でやらなくていい安心感」だったりするので、効率化の恩恵をそのまま押し付けても、あまり響かないこともあるだろうな、と。
申告というミスの許されない仕事で、どう使うか
「数字を入れる・計算する」はAIに任せられます。でも「この数字が正しいかどうかを判断する」のは自分の仕事です。
空欄があったとき、異常値が出たとき——ここで最後の判断をAIに渡してはいけない、という線引きは自分の中でかなりはっきりしています。
これは言い換えると「判断させない設計」ということだと思っています。難しい話ではなくて、AIには「材料を揃えてもらう」「候補を出してもらう」ところまでを担当してもらい、「これでいく」と決める部分は自分の手元に残す。
ミスの許されない仕事だからこそ、この責任の置き場所だけはぼやかしたくないな、というのが正直な感覚です。
そしてもう一つ大事にしたいのが、個別具体的な状況に合わせた相談対応の部分です。
とくに相続のご相談は、その色合いが強いと感じています。相続税の計算そのものは仕組みがあるので対応できますが、実際のご相談は税金の話だけで終わらないことがほとんどです。
ご家族の間の感情の機微だったり、これまでの経緯だったり、ときには人生相談に近いようなお話をうかがうこともあります。
ここは数字や条文の外側にある話なので、AIにどこまで頼れるかというと、正直まだ難しいだろうなと感じている部分です。
こういう仕事が残っているからこそ、税理士という仕事の面白さがあるのかもしれません。
定型作業を仕組み化したことで、自分がレビューに集中できるようになりました。確認作業に追われていた頃より、今の方が一件ずつ、ちゃんと向き合えている気がします。
「AIに任せる=手を抜く」ではないというのが、今のところの自分なりの答えです。
むしろ手が空いた分、判断が必要なところに時間を使えるようになった。逆説的ですが、任せる範囲を広げたことで、丁寧さが増した部分があります。
これは事務所の中の話に限らないと思っていて、営業活動にもAIを活かしていきたいという気持ちが最近強くなっています。売上至上主義でやりたいわけではないのですが、発信や情報整理にAIの力を借りられるなら、ないよりはあった方がいい。
ここも、どこまで任せて、どこは自分の言葉で伝えるかを、これから探っていきたいところです。
線引きは、使いながら育てるものでもあります。
最初から正解の線引きがあったわけではありません。使いながら、少しずつ引き直しています。
むしろ、どこまで任せることができるかを考えること自体が、今のぼくにとってはちょっとした楽しみになっている気もします。
