昨日、「好きなこと」より「苦にならないこと」のほうが仕事になっていた、という話を書きました。領収書を月ごとに揃えて、数字にしていく。あの作業も、そのひとつです。
その一方で、記帳代行はいずれ税理士の仕事ではなくなる、という話もよく耳にします。私自身、そう考えていた時期がありました。
ただ、実際に手元を見ていると、必要としてくださる方はまったく減っていません。むしろ私の手元では増えていて顧問契約の受付を一時停止しているぐらいです。
今日は、記帳代行をこれからどうするのか、いまの現在地を書いてみます。
一度は「やめる方向」で考えていた
先週、顧問料の値決めと時間単価の話を書きました。
受ける仕事を絞る、値段を見直す。その流れで考えていくと、次に出てくるのは「手のかかる仕事を減らす」という話になります。
そして手のかかる仕事といえば、まず記帳代行です。細くしていく道も、実際に考えました。最近は税理士でクラウド会計ソフトを活用する方は記帳代行はやらない方向性の方が多く見えます。
値決めの続きは、たぶん「やめること」なのだろう。しばらくそう思い込んでいたように思います。何をやるのかやらないのか決めていく必要があります。
やらないことも明確にしておくと自分の行動がブレにくい気がします。記帳代行をやめるという選択肢ももちろんありますが、いまはまだそういう考えには至っていません。
それでも、ニーズはまだまだある
考えが変わったのは、理屈ではありませんでした。単純に、必要とされている量が減らなかったからです。
特に、私が多くお付き合いしている業種——漫画家さん、同人作家さん、同人ゲームを作っている方——では、その傾向がはっきりしています。
- 創作の時間を削りたくない。締切前は経理どころではないし、締切が明ければ次の締切が来る
- お金の入り口がとにかく多い。同人イベントの現金売上、通販、ダウンロード販売サイトごとの入金、印税や原稿料、グッズの在庫、支援サイトの収入。入金のタイミングも明細の形もバラバラです
- プラットフォームごとに明細の出し方が違う。自動連携で全部きれいに、とはなかなかいきません
- 経費の線引きが独特。資料としての書籍、取材、機材、アシスタント代、印刷費
- 簿記に触れる機会が、そもそもなかった方が多い
- 面倒なことは誰かに頼みたい
数字が苦手ということではないと思っています。学ぶ機会がなかっただけです。ただ、その時間が惜しい、よくわからないから不安という気持ちの方がとても多いです。
記帳代行は「入力するだけの作業」と言われることがあります。
ただ、この方たちの数字は、入力する前の段階——どれが何の入金で、どこまでが仕事の支出か——を整理するところがいちばん重い。
そこは、まだAIだけでは終わらないというのが、いまの実感です。
記帳を見ているから、気づけることがある
もうひとつ、手放しにくい理由があります。
毎月数字を触っていると、そこでしか拾えないものがあるからです。
- 売上の伸び方から、消費税の課税事業者になるタイミングが早めに見える
- 大きく跳ねた年に気づけるので、打ち手を先にご相談できる
- 在庫の動きや経費の偏りに、指摘される前に気づける
- 「これって経費になりますか」という何気ない会話が、いちばん実態を教えてくれる
最後のものが、いちばん大きいかもしれません。あらたまった面談よりも、記帳のやりとりの端っこのほうに、本当のことが出てきます。
記帳を手放すというのは、この気づきの入り口も一緒に手放すということです。それは、私の仕事のやり方には合いませんでした。
AIは、やめるための道具ではなく、続けるための道具
では、手のかかる部分はどうするのか。ここでAIの話になります。
自動連携やAIで、入力そのものにかかる時間は確実に減りました。ここは間違いなく減っています。
ただそれは「記帳代行をやめられる」という意味ではありませんでした。「同じ人数のまま、もっと丁寧に見られる」という意味だった、というのがいまの感覚です。
いまの線引きはこうです。
AIに任せるのは、明細の取り込み、繰り返しの仕訳、規則性のある分類、金額の突合。
自分が見るのは、どれが何の収入かを整理する最初の交通整理、判断が要る経費、例外的な取引。そして、数字を見ながら話す時間です。
結果として、値決めの話も、以前より無理なく成り立つようになってきた気がします。
やめて単価を守るのではなく、余白を作って、単価に見合う中身にする。いまはそういう順番で考えています。
なくなる仕事だと言われても
記帳代行はなくなる、とはこれからも言われ続けるのだと思います。
ただ、少なくとも私の目の前には、必要としてくださる方がいます。その方たちは経理をしたくないのではなく、創作の手を止めたくないだけです。
だから私は、なくす方向ではなく、続けられる形にする方向で考えています。
朝晩の空気が少し変わってきました。道具のほうも、この数年でずいぶん変わりました。 なくなると言われる仕事を、道具を替えながら続けていく。たぶん、これがいちばん自分に合ったやり方なのだと思います。
