中小企業のオーナー、社長さんの相続を担当する機会が多いですが、
サラリーマンの相続とは決定的に違うものがあります。
会社の株式
会社を作るときに、法人であれば株式会社が最も多いと思います。
株式を発行して、出資を募り、最初は資本金を基に会社を運営していきます。
創業者の場合であれば、株式の引き受けがすべて社長本人というケースがいまは大半です。
かつては、株式会社を作る際には7人の発起人が必要でしたが、
今では一人株主、1円資本金も可能です。
株式を発行する際には一株いくらにするか決めますが、仮に100円で発行し、
社長本人が1万株を保有したとします。
そうすると、100円×1万株=100万円となり、資本金は100万円です。
オーナーがお亡くなりになった時には、100万円の株式を相続すると思いがちですが、
100万円はあくまで額面です。
オーナーがお亡くなりになった時の価値が相続財産としての株式の価値です。
ちなみに、この中小企業の上場していない会社の株式のことを
取引相場のない株式と相続の世界では呼びます。
取引相場のある株式は上場株式です。
上場株式であれば、株式市場がオープンの時の価額を財産価額として使えますが、
取引相場のない株式は、額面での財産価額ではなく、
あるルールに基づいて計算をします。
このルールのことを財産評価基本通達といいます。
このルールに基づいて株式の価額を算定する行為を評価すると言いますが、
実際に株式の評価をしてみると、額面100万円ではありません。
場合によっては億単位になったり、ゼロ円評価のこともあります。
この上場していない株式ですが、
誰か欲しい人がいれば売れる場合もありますが、たいていは親族の方が相続します。
社長にとっては大事な会社の株式ですが、会社に関係のない親族にとっては
相続税だけがかかるお荷物財産になるケースもあります。
以前に担当した社長の親族から、絵に描いた餅ですね、と言われたことがありますが
会社に関係のない人からすると相続税が高くなる原因の一つにもなり、
またその株式で相続税が払える訳もなく、残念ですが誰も欲しくないこともザラです。
中小企業のオーナー・社長さんの相続では、
この株式の評価、事業承継がおおきなウェイトを占めます。
会社に対する貸付金
中小企業の社長さんは、会社のことが大好きです。
従業員も雇ったりしていますと、会社に何か急な支出や
資金繰りが窮することがあると、社長さんが会社にお金を入れます。
株式にするとややこしいので、多くは社長から会社への貸付で会計処理されます。
サラリーマンにはイメージしづらいかもしれませんが、
かなり多くの中小企業でその貸付が行われます。
額面で数千万円などザラです。
実はこの会社への貸付金も相続財産になります。
会社からお金を返してもらうあてがあれば良いですが、
社長が会社にお金をいれるぐらいですから、資金繰りが良いケースはまれです。
返してもらえるあてのない貸付金に相続税が課されます。
前述の株式と合わせて、会社に関係のない相続人にとって価値のない財産だけで
億単位になることは往々にしてあります。
これも事前の対策が非常に重要です。
貸付金について債務免除したり、役員報酬がでているなら
役員報酬を減額して、その分を貸付金の返済にしてもらったり。
会社の状況を見ながら、柔軟なオーダーメードの対応が必要です。
会社の借入金の連帯保証
中小企業の社長さんは、会社が金融機関からの借り入れをする際に
連帯保証人になっている場合が多いです。
連帯保証債務は相続財産になります。
マイナスの相続財産です。
さらに質の悪いことに、この連帯保証は債務の額が確実でないことから
債務控除の対象にならないことが多いです。
つまり、連帯保証だけ相続して、その債務については相続財産から引けません。
会社に何かあれば、お金だけは払う必要がでる可能性があります。
金融機関からの借り入れで団体信用保険が付与できていれば良いですが、
団体信用保険を付与すること=金利が上がることを意味しますので、
結構な割合で会社の借入金には団信保険は付与されていません。
これは民間の生命保険で、団信保険の役割を充当できることがありますので、
これについても事前の対策が重要です。
まとめ
中小企業のオーナー・社長さんの相続対策には他にも
必要なことが山ほどあります。
ちまたでは、相続を3回経験すると財産はなくなる、などと言われたりしますが、
相続業務を多く経験してきた私に言わせると、
何も対策しなければそうなるでしょうね、ということです。
相続対策は生前にしかできないと考えてもらって良いです。
事前の対策が相続財産を守るための最善の方法です。