貸付用不動産を建てたら節税対策、というカラクリと注意点

house

house

おはようございます、京都の所属税理士takasago(@co_develop)です。

相続担当をしておりますと、イロイロな相続税対策のご相談を受けることがあります。

そのなかでも多いのが、貸付用の不動産を所有する、という対策。

相続税が安くなりますよ、という甘い言葉に騙されるひとが非常に多い。

相続税が安くなるカラクリと注意点をまとめました。

 

目次

現預金→不動産への財産組み換え

相続税が安くなる、というワードは資産家の方にとって

キラーワード=刺さる言葉であり、心を強く揺さぶります。

 

金融機関の営業パーソンや不動産会社のセミナーなど

節税対策するなら貸付用不動産を買いましょう、というのがとかく多い。

実際問題として相続税は減りますが、他にも減るモノがあります。

そのあたりも注意喚起を含めてまとめます。

 

実行するならば、ココが理解できなければやらないほうがイイです。

 

現預金の相続税評価額

相続税が課税される場合、課税される元となる金額があります。

それが相続税評価額と呼ばれる相続税を計算するための財産の値段となります。

 

現預金の場合はどうか?というと。

預金であれば相続開始日=通常は亡くなった日の残高です。

金融機関の残高証明書を取得すれば分かりますし、

通帳が記帳されていればすぐに分かります。

 

現金も同様に、亡くなった日時点でナマの現金として

財布や自宅のタンス・引き出しに残っていた金額です。

 

現預金の相続税評価額は簡単です。

その亡くなった日の残高でしかありません。

現預金にイロはついてないといいますが、そのまんまの金額が評価額になります。

[alert title=”注意”]ココでは名義預金や定期預金については保留します。

名義預金はコレよりも相当にややこしいのでまた書きます。[/alert]

 

でも不動産は現預金とは違う、そこがポイントです。

不動産の相続税評価額

不動産はどの価額に相続税が課税されるか?というと、

土地の場合は、路線価地域といういわゆる市街地は、その路線価をもとに、

建物の場合は、固定資産税評価額をもとに、評価します。

 

相続税の世界では、相続財産については基本的に「財産を評価する」と言います。

これは財産評価基本通達という財産の値段を計算するためのルールからきています。

 

よって、相続税の相談などで税理士が評価してみないと、、、とか言っているのは

ザックリと言うと値段を計算する、という意味です。

ココでいう値段はあくまで相続税を課税するためだけに使う値段です。

不動産を売買したりするときの値段とは違いますので、頭の片隅に置いておきましょう。

 

仮に京都市内中心部の土地であれば、

路線価という土地を評価するときに使用する

値段表のようなものが国税庁から発表されているのでそれを使用します。

建物の場合はもっと簡単で、固定資産税評価額がベースとなります。

 

土地の評価は非常に奥深い領域です。

慣れていないと全く見当違いの評価額になって

相続税がべらぼうに高くなったりします。

 

例えば検討すべき事項としては

土地の評価単位

土地の大きさ

土地の形状

前面道路の状態

土地が所在する場所の容積率

などなど、列挙し始めればキリがありません。

財産組み換えのカラクリ

ここからがポイントです。

仮に財産として預金を1億円持っているとします。

 

この1億円で不動産を買ってきた場合や建築した場合、

土地に4,000万円かかって、建物に6,000万円かかったとします。

 

すると相続税を基本に考えた場合、

現預金1億円についてはもちろんそのままの金額が課税対象です。

 

思い出してみましょう。

現預金は1億円に丸々税金がかかりますが、

不動産は財産評価するんでしたね。

つまりは相続税計算用の値段を算定する。

 

そうすると、土地は路線価が時価の80%と言われているので

4,000万円の80%で3,200万円と計算できたとします。

ホントかよと言われるかもしれませんが、

場所によっては4,000万円の半分ぐらいのこともあります。

よって、4,000万円で買ってきた土地を評価額3,200万円として

相続税を計算することは十分にあり得ます。

 

この時点で現預金4,000万円→土地3,200万円となります。

 

では建物はどうかというと。

建物は固定資産税評価額で相続税の計算に使う評価額を計算するんでしたね。

固定資産税評価額は市区町村レベルで算定されます。

 

建物に6,000万円の建築費用がかかったとして

固定資産税評価額は4,000万円ぐらいなら全然あり得ます。

半分くらいになるコトもザラです。

今回は4,000万円に留めました(笑)

 

よって、現預金1億円で買ってきた不動産が

3,200万円+4,000万円=7,200万円になりました。

 

現預金が不動産という財産に組み換わっただけで、

1億円-7,200万円=2,800万円が財産として減少したことになります。

ワ~~~~~~~~~オ!

これが忍法、財産組み換えの術です。

 

でもよく考えてほしい。

現預金1億円は手元からはなくなっているんですね。

ココが全く見えていない人がいます。

 

この1億円あれば相続税が払えたかもしれないんですよ。

ていうかほかの財産次第ですがたぶん相続税は払えると思います。

 

財産として不動産7,200万円になったとしても相続税は現金一括納付が原則です。

相続税が払えないと元も子もない。

なので、相続税を遺産から払う(今回の場合は1億円)場合には、

1億円が7,200万円になったところで

相続税が払えなくなるという事態が発生します。

 

なので、相続税対策をする前には必ず、

今の状態で相続税が遺産から払えるかどうか

そこをまずは確認する必要があります。

 

カラクリはまだまだ続きます。

まだ不動産を貸してねーじゃん、そんな声が聞こえてきました。

その通り、不動産を貸し付けるとどうなるか。

不動産を貸し付けることによる影響

不動産は基本的に借り得、

借りたほうの人に強固な権利が発生します。借りたもん勝ち。

ザックリとそう理解して差し支えありません。

 

土地を人に貸すと借地権が発生し、建物を貸すと借家権が発生します。

そういうもんだとご理解ください。

借地権は不動産の評価よりも奥深い、闇です(笑)

素人がはまると抜け出せなくなる底なし沼ですから注意しましょう。

それはさておき。

 

前述の土地3,200万円と建物4,000万円をベースに考えます。

この不動産を金融マンのアドバイス通り、貸し付けたとします。

とりあえずややこしいので一戸建てとしておきましょう。

 

所有する土地の上に、所有する建物があって建物を貸している場合。

土地は貸家建付地、建物は貸家、という名前に変わります。

この表現は相続税を計算する評価対象としての名前です。

 

貸家が建て付けてある土地という意味で貸家建付地(かしやたてつけち)として

評価することになります。

この土地が路線価地域でなおかつ借地権割合が70%の場所にある場合、

貸家建付地の評価はどうなるかというと。

 

自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

 

※自用地評価額(じようちひょうかがく)とは簡単に言うと

土地を自分で持ってて自分で使っている状態の評価額を言います。

 

※賃貸割合は貸し付けている割合です。今回は一戸建てで100%とする。

 

あてはめて計算してみると

3,200万円×(1-70%×30%×100%)=2,528万円となりました。

差額はどこに?って思うかもしませんが、簡単に言うと借主側へ、という理解で

とりあえずはよいです。ややこしいので。

 

建物は貸家になったので、このように評価します。

自用家屋の評価額×(1-借家権割合)

 

よってあてはめると

4,000万円×(1-30%)=2,800万円となります。

 

つまり、今回建物を貸した場合には

評価額として、2,528万円+2,800万円=5,328万円となりました。

ワ~~~~~~~~~オ!

これが忍法、貸家建付地評価の術です。

 

だって、だってよく考えてみてください。

1億円の現預金を不動産を取得して貸し付けたら5,328万円になったんですよ。

スゴイ、スゴイ、やるっきゃない!

って資産家の方は思うかもしれませんが、ちょっと待った。

 

前述の相続税の支払いについてはまだ問題として残る可能性がありますし、

ココに借り入れをして不動産を取得しましょう、建築しましょうなどと言ったり、

賃貸用不動産を建ててもらったら30年一括借り上げで家賃保証、

などと甘いコトバをささやく営業パーソンがいます。

 

この場合の返済計画や家賃保証契約、メチャクチャ見通しが甘い!

賃貸用不動産を建てたって、入居者が集まるかもわからないし、

家賃保証もたいていが10年更新で、10年たったら家賃減額なんてザラ。

 

返済計画がうまく回らずに、借金だけが膨らんで

相続どころか相続放棄することになりかねません。

他の財産をも食いつぶします。

 

そしてこの営業パーソンや、相続コンサルタントと称するひとたちは

税理士ではなく、相続にチョット詳しい無責任なひとです。

こういうひとが推し進めるオイシイ話には裏があります。

 

コレだけは言っときますが、

税理士に事後相談されても何もできないコトが大半なんですよ!

 

この手の相談で一番多いのが困ってからくるパターン。

もう不動産を手放しても完済できるかどうかもビミョーなケースもあり

問題が顕在化した時には勧めてきたひとたちは誰も連絡が取れない、

泣き寝入りするそんなパターンが王道です。

まとめ

節税対策は時価と相続税評価額の差額を利用したものが多いです。

今回の貸付用不動産は典型的な手法です。

立地条件などでうまくはまる場合もありますが、はまらない場合も多く。

迷ったらやめておいたほうがいいですね。

 

近年話題になったタワーマンション節税も似たようなものですが、

少なくともぼくはタワーマンション節税は絶対に勧めません。

税務調査が来ることがほぼ間違いないからです。

節税に対する相談は事後相談ではなく、事前相談を心掛けましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ひとり税理士として独立開業した京都在住の税理士です。ひとり税理士としてチャレンジしていること、考えていることなどを発信していきます。

目次